ありんどうの物語 

作文練習中

ありんどうさんは、小さなアリの穴に魅了されていた。彼女の名は本名ではなく、アリの巣の出口を意味する言葉から取られた愛称だった。幼いころ、庭で見つけたアリの巣に釘付けになったあの日から、彼女はこの地味で謎めいた世界に心を奪われていた。

「アリの穴って、宇宙みたいだよね。」
友人に話すといつも笑われた。だが、ありんどうさんにとってアリの穴は果てしない可能性の入口だった。

彼女の休日の過ごし方は決まっていた。ルーペを片手に、郊外の公園や空き地を歩き回り、新しいアリの穴を見つけてはじっと観察する。風が吹くと砂粒が少しずつ崩れ落ち、巣穴が拡張されていく様子。小さなアリたちが自分より何倍も重い土を運び出す姿。どんなに忙しくても、整然とした行動に無駄がないことに彼女は感動するのだった。

ある日、彼女は公園の隅で特に見事な巣を発見した。何本もの通路が網の目のように広がり、地表には絶えずアリが出入りしている。ありんどうさんは思わず膝をつき、ルーペでその活動を覗き込んだ。

そのときだった。巣穴の奥から突然、普段見かけるアリより少し大きめのアリが現れた。体は黒光りし、動きに力強さがあった。彼女はそのアリに思わず名前をつけた。「リーダー」と。

リーダーは巣穴の入り口に立ち止まり、しばらく周囲を見回した後、突然こちらに向かって動き始めた。ありんどうさんは驚いて後ずさった。

「私を見てる…?」

そんなわけがないと思いつつも、その瞬間、彼女の心には妙な確信が芽生えた。この巣の中には、私がまだ知らない秘密がある。

その日以来、ありんどうさんは毎日のようにその巣を訪れた。リーダーの姿を探し、巣穴の周りのわずかな変化に目を凝らした。彼女の観察ノートは次第に分厚くなり、アリの動きや巣の構造についての詳細がびっしりと記されていった。

ある雨上がりの朝、巣穴が水浸しになっているのを見つけたとき、ありんどうさんは思わず傘を差し掛けた。「これで助かるかな…」そう呟きながら、彼女は微笑んだ。

ありんどうさんにとって、アリの穴はただの小さな穴ではなかった。それは日常の隙間から見える、もう一つの広大な世界。彼女はそれを、ありのままに愛していた。

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